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動物病院だより メガネ獣医奮闘記

現場で働くメガネの獣医3名と動物たちとの悲喜こもごもをお送りします。

2014年11月 の投稿一覧

こんなこといいな、できたらいいな

こんばんは。

夏は動物園の繁忙期ですが、秋が暇かというとそうでもなく、

日々忙しくしておりますと、月日が経つのは早いもので、

ご無沙汰してしまいましたが、メガネ3号にございます。

 

休筆しておりました間にもさまざまな出来事がありました。

毎年の行事ですが、今年は9月25日に動物慰霊祭が行われました。

ご参列いただいた方々、誠にありがとうございました。

 

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慰霊祭の日にはこの1年間の動物たちとの別れについて思い返すこととなります。

動物たちの死の場面には必ず獣医が関わるため、様々な想いが去来いたします。

個人的には、動物園に貢献してくれた動物たちに感謝の念を再確認するとともに

死亡した動物たちに対して、他に良い対応ができたのではないかと、

反省と惜念の思いとともに思索にふける機会となります。

 

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次の1年間はもっともっと

動物たちの健康と生活の質の向上のために尽力しなければならないと、

思いを新たにいたします。

 

動物たちの治療には様々な苦労があるのですが、

動物園の動物たちの治療が困難であることの一因として、

愛玩動物や家畜動物であれば容易である、

日々の健康チェックが実施しづらいことが挙げられます。

 

家庭犬であれば、ヒョイと抱きかかえれば体重を測ることができます。

しかし動物園動物の多くは、人に触れられることを良しとしません。

やり方によっては捕まえるだけでも、

そのストレスが原因で死亡してしまうこともあり得ます。

また、体重を測るだけでも麻酔が必要となる動物も多々います。

 

日常の健康管理を充実させるべく、

昨今、全国の動物園で同時多発的にトレーニングによる健康管理が取り入れられています。

以前もキリンの削蹄について少しご紹介したことがありますが、

日本全国津々浦々多種多様な動物がトレーニングの日々を送っています。

 

通常であれば動物が拒否反応を示すはずの、

触る、捕まえる、蹄を削る、注射を刺す、検査道具を当てるなどの刺激を、

トレーニングによって受け入れてもらえるようにします。

手法は家庭犬のトレーニングや水族館の海獣類のトレーニングとほとんど同じです。

ターゲット棒と呼ばれる道具を使うのでターゲットトレーニングと呼ぶこともあります。

ターゲット棒とご褒美を通して、動物たちの行動を引きだし、人間側の意図を伝えます。

 

円山動物園ではキリンの他にも、ホッキョクグマやアザラシで試行しています。

 

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こちらはホッキョクグマの採血トレーニングの様子。

すでに成功していた八景島の方から手法を教わりました。

 

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写真の塩ビパイプがターゲットとなります。

パイプを掴んでじっとしているという行動をホッキョクグマに学習してもらいます。

そして、じっとしている間は、刺激を受けても動かない、

最終的には注射針を刺しても動かないということを学習させることができると、

血液採取が可能になります。

トレーニングの成果により、キャンディは採血ができるようになりました。

ララやデナリではできておらず、今後の課題です。

 

ホッキョクグマではどうしても檻越しになりますが、アザラシであれば

同じ空間でトレーニングができるため、できることの幅も広がります。

採血の他、お腹にエコーを当てることも可能になります。

今のところはまだどちらも達成できていませんが、

近い将来皆様のお目にかけられるよう、鋭意努力している最中です。

 

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採血やエコー検査が日常的にできるようになれば、

動物たちの体調変化についてこれまでよりも詳しく把握でき、

検査結果を受けた細やかな対応が可能になります。

病気や怪我の早期発見・早期予防にもつながります。

 

しかしながら、トレーニングは獣医よりも飼育員の努力が必要不可欠。

獣医はオマケみたいなものです。

トレーニングによって動物たちが得られる利益について、獣医と飼育員とが一緒に考えながら、

二人三脚で動物たちの健康と快適な生活のために切磋琢磨して参る所存です。

 

ひと月以上遅くはなってしまいましたが、

今年の慰霊祭を受けての所信表明にございます。

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