札幌100マイル

動物病院だより メガネ獣医奮闘記

現場で働くメガネの獣医3名と動物たちとの悲喜こもごもをお送りします。

2015年06月 の投稿一覧

ホワイトアウト

こんばんは、メガネ3号にございます。

 

前回のトラのアイとAI(artificial insemination)の記事が文章ばかりでしたので、

溜りに溜った写真掲載ルサンチマンを発散させるべく、

ここ数ヶ月で撮り貯めた白い写真を吐き出したく存じます。

 

それでは4月上旬編、

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スタートゥハ!

 

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4つの乳頭全てから順番に飲んでいきます。

双子の時には考えられなかった完全独占です。

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このころはまだまだララにべったり。

 

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子供が元気に育っているのも、子育て上手なララによるところが大きいです。

ララのもとに産まれた幸せを噛みしめてほしいと願っていたら、

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思いきり噛んでいますね。ララ、本気で痛そうです。

アムールトラの人工授精

こんばんは、メガネ獣医‘3月以来’です。

少し前のことではあるのですが、2月末にアムールトラの麻酔を実施しました。

タツオの伸びすぎて肉球に刺さってしまった前肢の爪をトリミングし、

あわせてその他の爪も切るのが主要な目的でした。

 

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タツオの麻酔の様子。麻酔はとても安定していました。

 

ところで今回、麻酔に合わせて一つの大事な試行を実施しました。

それが、アイとタツオのペアの人工授精です。

 

アイの導入以来、時には相方をリングに交代しつつ、

トラの子供の誕生を期待していたのですが、これまでうまくいっていませんでした。

 

繁殖がうまくいかない理由はいくつか考えられますが、

アイとタツオの場合、交尾がうまくいっていないことが主要な原因だと考えられました。

交尾が原因の場合、人工授精が一つの解決策となります。

 

アイとタツオの年齢を考えると、この先繁殖のチャンスはそう多くありません。

アイは海外から導入された個体で、国内では貴重な血統です。

日本の動物園におけるアムールトラの血統を守るためにも、

また、絶滅が危惧される動物の繁殖技術向上のためにも、

タツオの麻酔の機会に合わせて、アイにも麻酔をかけて

人工授精にチャレンジすることを決定しました。

 

今回の人工授精では、野生動物の人工繁殖技術に精通した

北海道大学獣医学研究科繁殖学教室に協力いただきました。

動物園が専門性を高めるためには、専門機関との連携は非常に重要です。

 

人工授精の実施には、アイの発情の見極めが重要になります。

アイの発情のタイミングにタツオの爪切りの予定を合わせた結果、

2月の末の実施となりました。

 

人工授精の最初のハードルは、タツオからの精液採取です。

これまで、野生動物から精液を採取する場合には

直腸に電極を入れて行う電気刺激が広く行われていました。

しかし、近年尿道にカテーテルを入れ、電気刺激なしに精液を採取する方法が開発され、

タツオの精液採取もこの新しい方法で行いました。

この方法により個体への負担が大きく軽減されます。

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爪切りと、

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精液採取の様子。

作業は無事に進行し精液採取にも成功しました。

 

次は採取した精液をアイの子宮の中に入れなければなりません。

トラの人工授精は世界でもチャレンジしているところが何件かありますので、

いろいろ資料を調べて方法を決めました。

今回の人工授精では膣から注入する方法を採用しましたが、

アメリカの動物園獣医師からは、腹腔鏡の使用を推奨されました。

残念ながら円山にはその設備がありません。

アメリカの動物園の先進性を感じます。

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アイの作業も順調にすすみ、精液を注入することができました。

貴重な麻酔の機会ですので、アイの健康診断と爪のケアも一緒に実施しています。

 

人工授精の成功の一つの指標はアイの発情が来ないことなのですが、

GW頃を予定していた発情は来ませんでした。

成功かどうか、まだしばらく経過を追う必要があります。

現在は出産の可能性を視野に入れつつ準備を進めているところです。

妊娠していれば、今月中旬~下旬にかけて出産となります。

皆様にも暖かく見守っていただければ幸いです。

 

近年、日本国内でも希少動物の人工授精にチャレンジする動物園が増えています。

人工授精は、国内の動物園においてアムールトラだけではなく、

飼育頭数が減少した動物種の飼育頭数の維持や血統管理の方法として期待されています。

また、このような人工授精の取組の積み重ねが、

希少な野生動物種の絶滅回避につながる可能性もあります。

今回のような動物園の挑戦が、将来の動物園のため、また野生動物の未来のために

きちんと活用できるよう、努力を続けていきたいと思います。

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