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by 大熊 一精

大熊 一精
プロフィール

1967年生まれ、埼玉県川越市出身。
銀行系シンクタンクに12年間勤務の後、2002年から札幌市に移り住み、現在はフリーランスのコンサルタントとして活動中。 「一日一冊」を目標に、ジャンルを問わずに、本を読んでいます。読書量全体のうち、電子書籍端末で読む割合は3割ぐらい。 札幌市民になってからは、毎年、コンサドーレ札幌のシーズンチケットを購入し、2014年シーズンで13年目。週末ごとに悲しい思いをすることのほうが多いのに、自分が生きているうちに一度ぐらいはJ1で優勝してほしいと願いながら、懲りずに応援を続けてます。
著書「北大の研究者たち 7人の言葉」(エイチエス、2012年刊)


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『遺品整理士という仕事』木村榮治

『遺品整理士という仕事』木村榮治(平凡社新書767,2015年3月刊)

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「遺品整理士」とは、この本の著者である木村榮治氏が、自らの辛い体験を元に、4年前に新たに創設した民間資格です。

 

この本は、冒頭、木村氏がご尊父を亡くされた際の経験を語るところから始まります。木村氏は、父親の急死を受け、家の中に遺された品々を片付けるために、便利屋さんを呼びます。しかし、そこで、便利屋さんの仕事は「不用品処理」であって「遺品整理」ではないことに気づかされます。父親の遺品が「不用品」「ごみ」として手際よく事務的に処理されていく姿に、木村氏はショックを受けます。

 

その体験をきっかけとして、木村氏は、遺品整理がどのように行われているのかを調べていきます。その結果、わかったのは、ビジネスとしての遺品整理には、いわゆる心のケアのみならず、さまざまな問題=不透明な価格設定、回収した遺品の不法投棄、貴金属類の不正買い取り、等々=が存在していることでした。

 

同じような経験をして苦しむ人を出したくない−《これは、遺品の整理にまつわるガイドラインを作らなければたいへんなことになる。「遺品整理士」の資格を作ろう。遺族の立場に経って仕事ができる人を育てよう。気づけば、私はそう決意していました》(p.11 はじめに 私が遺品整理士認定協会を立ち上げたわけ)−遺品の整理には単純な清掃業者や引越し業者とは別の専門が必要であると考えた木村氏が、孤独死を研究する大学の先生や、神主さん、廃棄物処理に関する法制度の専門家などとともに創設したのが「遺品整理士認定協会」です。

 

第1章「無法地帯に投げ込まれる遺品を救え」では、遺品整理の周辺で発生しているトラブルの実態が描かれています。そもそもの問題として、本来であれば遺族が行なうはずの遺品整理が、第三者に託されざるを得なくなっている社会の現状がある、ということが説明されたうえで、遺品整理に群がるわるいやつらと、それによって苦しめられる人々の姿が、具体的な事例を元に描かれています。

 

第2章「遺品整理士の正しい仕事」は、第1章の実態を受けて、遺品整理とはどうあるべきか、遺品整理士とは何をする人なのか、の説明。これも具体例で説明されているので、非常にわかりやすいです。

 

ここまでは実際に身近な人の死に直面した後で発生する問題ですが、第3章「今から備える遺品整理」と第4章「よい遺品整理とは」に書かれているのは、あらかじめ知っておくべき事項です。このブログを書いている私にも、離れた場所で暮らす高齢の両親がいます。その家を訪ねるたびに、モノが溢れていることに辟易することが多いのですが、第3章「今から備える遺品整理」を読んで、はっとさせられました。

 

どうしてものがあふれてしまうのか、考えてみてください。(中略)親の家がごみ屋敷化するのは、単に「もったいない」と感じる心が強い世代だからでしょうか。いえ、きちんとした理由があります。多くは健康上の理由です。足腰が弱くなることから、身体を伸ばす、曲げるなどの動作が辛くなり、ものをもとの位置に戻すのが億劫になってしまうのです。すると身のまわりがだんだんもので散らかってきて、その状態に慣れ、さらにものをその上に積み重ねることに躊躇がなくなっていきます。
(p.99)

 

正直、身近な人の死を前提にした準備というのは心が重くなるものです。でも、回避できない出来事である以上は、どんなことが起きるかぐらいは、頭の片隅に置いておいたほうがいい。数々の具体的な事例を元にしながら、論点が整理されているこの本は、辛いけれど向き合わなければならないことがたくさん書いてある本です。

 

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