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by 大熊 一精

大熊 一精
プロフィール

1967年生まれ、埼玉県川越市出身。
銀行系シンクタンクに12年間勤務の後、2002年から札幌市に移り住み、現在はフリーランスのコンサルタントとして活動中。 「一日一冊」を目標に、ジャンルを問わずに、本を読んでいます。読書量全体のうち、電子書籍端末で読む割合は3割ぐらい。 札幌市民になってからは、毎年、コンサドーレ札幌のシーズンチケットを購入し、2014年シーズンで13年目。週末ごとに悲しい思いをすることのほうが多いのに、自分が生きているうちに一度ぐらいはJ1で優勝してほしいと願いながら、懲りずに応援を続けてます。
著書「北大の研究者たち 7人の言葉」(エイチエス、2012年刊)


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『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』柳美里

『貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記』柳美里(双葉社,2015年4月刊)

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月刊誌「創」の連載エッセイ(2007〜2014年)と、その「創」の原稿料未払いをめぐる柳美里さんと「創」編集長のやり取りをまとめたものです。全部で269ページのうち、178ページまでが連載エッセイ、その後が「原稿料を払ってください 月刊『創』編集部と柳美里の交渉記録」です。

 

「はじめに」から一部を引用します:

やはり、芥川賞まで受賞した著名な作家が食うや食わずであるはずがない、という先入観を持っている方が多いのです。
小説家が、筆一本で食べていくのは奇跡みたいなものです。
扶養家族がいる場合は、副業に精を出さない限り難しいでしょうね。
ツイッターで某大学の文学部で講師を務めておられる先生から、小説家志望の少年少女の夢を萎ますようなことを書くべきではない、とお叱りを受けたりもしましたが、食えないんだから仕方ないじゃありませんか、甘言で誘い込むには過酷な仕事ですよ−–。それでも、小説を書くという仕事は、見ず知らずの読者の中に自分が創り出したもう一つの世界を出現させることができます。…(中略)…そう思って、わたしはこの28年間、休まず書き続けているのです。

 

そうなんです。この本を読めば、小説家という商売がいかに割に合わないものであるかが、よくわかります。作品を出さない限りはお金は入ってこない、作品を出したところでお金が入ってくるのは数カ月先。給与生活者とは、まったく違う世界です。

 

それでも書きたい、書かねばならないから書く。それが小説家なのだ−などといった勇ましい言葉、あるいは直截的な言いまわしは、言葉を紡ぐ仕事をしている柳美里さんは使っていませんが、わかりやすく表現すればそういうことになるのだろうと、この本を読んで、感じました。

 

本のサブタイトルには「困窮生活記」とあり、実際に数万円が工面できずにアクセサリーを売りに行ったり、ブックオフにCDやDVDを売って生活費を得るような場面も登場しますが、そうした出来事は、意外にさらっと描かれています。当事者にしてみれば、そのときの気持ちを思い出してみれば、思い出したくもないような出来事なのはわかるのですが、いわゆる「ネタ」でもなければ、誰かなんとかしてくれという叫びでもない。

 

「困窮」でありながら、けっして、暗くはないのです。この本の「おわりに」に、「貧乏と貧困は違う」という山折哲雄さんの言葉が紹介されています。ここに、この本の強さ、逞しさの源泉があるのだと思います。

 

 

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