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by 大熊 一精

大熊 一精
プロフィール

1967年生まれ、埼玉県川越市出身。
銀行系シンクタンクに12年間勤務の後、2002年から札幌市に移り住み、現在はフリーランスのコンサルタントとして活動中。 「一日一冊」を目標に、ジャンルを問わずに、本を読んでいます。読書量全体のうち、電子書籍端末で読む割合は3割ぐらい。 札幌市民になってからは、毎年、コンサドーレ札幌のシーズンチケットを購入し、2014年シーズンで13年目。週末ごとに悲しい思いをすることのほうが多いのに、自分が生きているうちに一度ぐらいはJ1で優勝してほしいと願いながら、懲りずに応援を続けてます。
著書「北大の研究者たち 7人の言葉」(エイチエス、2012年刊)


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『無人暗殺機ドローンの誕生』リチャード・ヴィッテル(訳=赤根洋子)

『無人暗殺機ドローンの誕生』リチャード・ヴィッテル(訳=赤根洋子)(文藝春秋,2015年2月刊)

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アメリカにおける無人航空機の開発過程を、スリリングに描いたノンフィクションです。

 

本書は、1973年、中東戦争の続くイスラエルで、航空機の設計を担当していたエイブ・カレムが、空軍から無人航空機の開発を依頼される場面から始まります。その目的は、空中から目標を攻撃する戦闘機を狙って飛んでくる地対空ミサイルに対し、無人機を囮として飛ばすことで地対空ミサイルの目標を誤認させることでした。レーダーが囮の無人機を戦闘機だと誤認すれば、ミサイルが撃ち落とすのは無人機になり、有人の戦闘機はミサイルの標的となることなく敵の目標を攻撃することができます。

 

すぐれた航空技師であった当時36歳のカレムは、この依頼に応じて基本設計を空軍に提供した後、ひらめきを得て新たな無人機の開発に乗り出しますが、自分の開発環境が実質的にイスラエル政府の支配下に置かれていることに嫌気がさして、アメリカへと渡っていきます。

 

一方、アメリカでは、ニールとリンデンのブルー兄弟が、武装無人機の開発に取り組んでいました。彼らが着目したのは、1983年の大韓航空機撃墜事件を契機に実用化されつつあったGPSでした。GPSを使って無人機をピンポイントで目的地へと誘導し敵への攻撃を行えば、無差別爆撃によって非軍人を巻き添えにすることは避けられる−そう考えた彼らは、また、根っからの起業家であり、資金を調達して技術開発の母体となる企業を買収し、そこへ退役した戦闘機乗りのトマス・キャシディを招きます。彼らはGPS誘導無人機の試作機を「プレデター」と名付けます。

 

1988年、アメリカ航空宇宙博で、カレムとブルー兄弟が出会うことから、プレデターは、実用化に向けて急速に動き始めます。ブルー兄弟はカレムが培ってきたあらゆる技術を(本書の言葉を使えば「冷血な資本主義者」の顔で)買収します。そして、1992年に旧ユーゴスラビアで始まった民族紛争で、プレデターは無人偵察機として実戦に投入されます。プレデターには、それまでの無人機とは桁違いの航続時間の長さという長所がありました。

 

実戦で評価を高めたプレデターには、新たなミッションが与えられます。偵察機が目標を発見してから別の戦闘機が現場へ向かって攻撃を仕掛けるまでのタイムラグという戦術的な問題を解決するために、プレデター自身に攻撃能力を持たせることが、次の開発目標となるのです。

 

しかし、プレデターの武装化は、技術的な問題、資金面の問題、政府をはじめとする官僚組織、さらには新しいものへの拒否反応を示す軍人などといった、数々のハードルに阻まれます。

 

クラークは、「プレデターは技術的にまだ発展途上ではあるが、最大の欠陥は陸海空軍の対立関係にある」と結論づけた。「プレデター最大の問題は、明らかに政治的なものである」とクラークはフォーグルマンへの報告書に書いた。「陸軍は、先進概念技術実証をおこなったあとでプレデター計画を奪われたことにいまだに腹を立てている。陸軍司令官らをきちんとサポートする能力が空軍にないことを立証し、プレデター計画を自分の手に取り戻す、あるいは、ハンター計画(訳注:陸軍による無人機開発計画)への資金提供を復活させる、というのが彼らの計画かもしれない」。(p.141)

 

その一方で、開発チームは、プレデターを、着実に実用化へと近づけていきます。

 

ビッグサファリの哲学は、「最小限にして充分なものを」「既成品を活用せよ」「情報は知る必要のある人間だけに」「修正せよ、開発すべからず」「あったらいいものではなく必要なものを」といったモットーやキャッチフレーズや警句に表れていた。(p.144)

 

 

そうした中、2001年9月11日、アメリカ本土へのいわゆる同時多発テロが発生し、武装したプレデター=無人暗殺機=の実用化が、一気に進んでいくことになります。

 

本書の邦題は『無人暗殺機ドローンの誕生』ですが、原題は《PREDATOR – THE SECRET ORIGINS OF THE DRONE REVOLUTION》です。無人機を意味する drone の revolution の知られざる始まりはプレデターである−アマゾン・ドット・コムやグーグルが無人航空機による無人配送システムを計画しているとのニュースは記憶に新しいところですが、インターネットやGPSがもともとは軍事目的で開発されたように、プレデターで培われた技術も、近い将来、われわれの生活を支えるものの一つになるのかもしれません。

 

蛇足ながら、本書がすごいと思ったのは、巻末に30ページに及ぶ「ソースノート」が付されていることです。参考文献リストとは別に、本書で明らかにされた事実の根拠が、丁寧に記されています。こういうのを見ると、アメリカはやっぱりすごいと思います。

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