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2014年10月19日 の投稿一覧

『盗まれた都市』西村京太郎

『盗まれた都市』西村京太郎

今回は、絶版本です。

古い頭で考えると、書評に絶版本を取り上げることはないのでしょう。でも、現在は、昔と違って、よほどの希少本でない限り、インターネットで探せば、すぐに手に入れることができます。古書店を探しまわるようなことをしなくとも、手元でポチれば手に入るのですから、便利な時代になりました。

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私事になりますが、先日、西村京太郎さんのお話を、目の前でお聞きする機会に恵まれました。それに先立って、西村京太郎作品を集中的に読みました(西村京太郎さんの過去作は多くが電子書籍化されているので、ポチッとやるだけで手軽に読めます)。その大半は、十津川警部を主人公とした「◯◯(地名または鉄道路線名)殺人事件」です。

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【西村京太郎記念館=神奈川県湯河原町=で撮影】

そんなとき、Facebookで教えていただいたのが『盗まれた都市』でした。いわく、西村京太郎は十津川警部の殺人事件だけじゃないですよ、『盗まれた都市』は古い作品だけれども現在でも通用する作品です、と。

そこで「では早速読んでみます」と応じたものの、この小説は電子書籍化されておらず、amazonのユーズドで買いました。

私が手にしたのは「新版」と銘打たれた2001年刊行の文庫本ですが、この作品が最初に出版されたのは1978年です。40年近く前に書かれたものですから、いま読むと、現実に即していない設定も少なくありません。

ここで、唐突ですが、『誰がタブーをつくるのか? (河出ブックス)』(永江朗、河出書房新社=この本は2014年8月初版刊行の新刊です)の「序章」から、一部を引用します。

特定秘密保護法に関しては、日本ペンクラブをはじめたくさんの表現者団体や市民団体、有識者などから反対声明が出された。国会周辺での抗議デモもあった。そうした抗議は正当なものだが、そのなかで、この法律ができるとすぐにでも日本がかつてのアジア太平洋戦争中のような状態になるかのように主張するのはどうかと思う。国家はもっと巧妙にやるだろう。彼らも歴史に学んでいるのだ。ハードな抑圧はかえって反発を招く。それよりも、もっとソフトに、さらには国民自らが望んで規制されるような状態にコントロールしようとするだろう。少なくともぼくが権力者ならそう考える。それは決してSFの話ではない。
(永江朗『誰がタブーをつくるのか』p.25-26)

西村京太郎の『盗まれた都市』が扱っているのが、まさに、これです。

SFではありません。ミステリーです。

ミステリーゆえ、これ以上の詳しい内容はあえて書きませんが、描かれているテーマは、現在でも十分に通用するどころか、現在だからこそ、読まれるべきではないかとすら思えるものです。

事件を解決する主人公は、十津川警部ではなく、私立探偵の左文字進です。左文字進は、西村京太郎作品では『消えた巨人軍』などに登場する人物ですが、近年では水谷豊さんがテレビドラマで演じている印象のほうが強いこともあり、小説を読んでいても、カギカッコの中の文字は頭の中で水谷豊さんの声に変換されてしまうことが多く、少し、戸惑いました(笑)。

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