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2014年10月18日 の投稿一覧

『なぜローカル経済から日本は甦るのか』冨山和彦(PHP新書932)

『なぜローカル経済から日本は甦るのか』冨山和彦(PHP新書932)

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タイトルはキャッチーですが、この本の内容をうまく言い表しているのは、むしろ、副題の「GとLの経済成長戦略」のほうです。Gとはグローバル(国際経済)、Lとはローカル(地域経済)。

どういうことか?

「G」、すなわち、グローバルについては…

国際的に取引され得る生産物は、経済のボーダレス化の中にあっては、価格(コスト)面でも、性能面でも、世界を相手にしなければならない。だから、グローバルに取引され得る商品を扱っている企業(主として製造業)は、世界チャンピオンにならない限りは淘汰されてしまう。したがって、世界チャンピオンを目指して、厳しい生存競争を勝ち抜かなければならない。

一方の「L」、すなわち、ローカルは…

国際的に移動できない生産物(サービス)は、海外と戦うことは、そもそもあり得ない。たとえば地域のバス会社が提供する公共交通というサービスを利用する人は、そのサービスに不満があるからといって、他の地域のサービスを利用するわけにはいかない。だから、「L」に属する経済セクターは、世界チャンピオンを目指す必要はない。だからといって「L」は何もしなくてよいわけではない。「L」が目指すべきは、世界チャンピオンではなく、県大会の優勝者である。

そして、日本国民(就業者)の多くは「L」に属しているにも関わらず、一般に語られる日本経済のあり方は「G」を前提にしている、それは高度成長期までは妥当であったが現在では当てはまらない。

だからといって、「G」ではなく「L」を中心に考えるべきだ、というわけではなく、「G」も応援しなければならないし「L」も大事にしなければならない、「G」と「L」は並列で論じていくべき事項である…

こうしたことが、著者自身の経験に基づく知見と、各種のデータによって、丁寧に説明されています。

内容は非常に多岐にわたっており、経済や金融に縁がない方にはやや手強いと感じられるかもしれませんが、著者が経験した具体的なエピソードやそこから得た肌感覚と、理論や統計とのバランスが非常によくとれており、また、難しい話を簡単に伝えるための喩え話がとてもうまいので、読みやすい本にまとまっています。

私がこの本をできるだけ多くの方に読んでいただきたいと思うのは、私自身の経験=1990年代に行なってきた経済や金融の調査研究、メガバンク以前の大手都市銀行内での仕事、東京から札幌への転居、ベンチャーの起業への関与、地場の中小企業とのお付き合い=の中で感じてきた多くのことが、この本に書かれている内容と合致しているからです。

それは具体的に何か?という話を書き始めると、この数倍の分量になってしまいそうなので、それはまた、いずれ、どこかで機会があれば、ということで。

『サッカーと人種差別』陣野俊史(文春新書987)

『サッカーと人種差別』陣野俊史(文春新書987)

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サッカーと人種差別、というテーマで、すぐに思い出すのは、今年の春にJリーグの試合会場のスタンドに掲げられた「JAPANESE ONLY」の横断幕です。今年4月、スペインリーグの試合で、プレー中にバナナを投げ込まれた選手(バナナを投げ込むことは黒人選手への差別を表す)が、その場でバナナを食べたことが世界的に話題になったことは、まだまだ記憶に新しい出来事です。

そうした行為について、そのときどきで論評するのは、インターネットで即時に情報が伝わる現在では、さほど難しいことではないでしょう(現に「JAPANESE ONLY」の写真は、あえてそれを探したわけでもない私でも、何度も目にしました)。そして「差別は、よくない」と断ずるのも、当たり前であり、簡単なことです。

そうした中にあって、この本の価値は、海外(おもに欧州)のサッカーの周辺で起きている人種差別について、数多くの事例を収集していることにあります。引用が多いため、著者の地の文とは違うリズムの文章が入り混じり、最近の新書(短時間ですーっと読めるものが多い)にしては若干の読みづらさはありますが、むしろ、そこが、この本のポイントです。

この本そのものから結論を得るのではなく(結論を求めれば「差別は、よくない」に決まっています)、自らの日常にフィードバックするためのヒントを得ることのできる本、読者に多くの問いかけをしている本です。

スタジアムの中が特殊なのではない。人種差別的言葉の応酬が起こる背景には、その言葉が普通に使われる社会が存在する。社会の中で人種差別的言葉が横行しているからこそ、普通にスタジアムの中でも用いられている。特にメディアにのらないようなアマチュアが大勢を占める試合では、差別語の洪水となる。有名企業が有名選手を使って行うキャンペーンの限界がここにある。メディアの領域の外で差別が野放しになっている−−-そんなメカニズムが出来ている。
(第3章「差別と闘う人びと」)

※電子書籍(Kindle)で読みました。

このたび、こちらに書評を掲載させていただくことになりました。書評というのもおこがましく、読書後のよろず雑文、という感じになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

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