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by 大熊 一精

大熊 一精
プロフィール

1967年生まれ、埼玉県川越市出身。
銀行系シンクタンクに12年間勤務の後、2002年から札幌市に移り住み、現在はフリーランスのコンサルタントとして活動中。 「一日一冊」を目標に、ジャンルを問わずに、本を読んでいます。読書量全体のうち、電子書籍端末で読む割合は3割ぐらい。 札幌市民になってからは、毎年、コンサドーレ札幌のシーズンチケットを購入し、2014年シーズンで13年目。週末ごとに悲しい思いをすることのほうが多いのに、自分が生きているうちに一度ぐらいはJ1で優勝してほしいと願いながら、懲りずに応援を続けてます。
著書「北大の研究者たち 7人の言葉」(エイチエス、2012年刊)


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『救出 3.11気仙沼 公民館に取り残された446人』猪瀬直樹

『救出 3.11気仙沼 公民館に取り残された446人』猪瀬直樹(河出書房新社,2015年1月刊)

 

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2011年3月11日、大津波によって水没しかけた宮城県気仙沼市中央公民館に避難した446人が救助されるまでを描いたノンフィクションです。

 

本書の副題には「公民館に取り残された」とありますが、446人の人々は、もともと公民館にいた人たちではありません。気仙沼市中央公民館は海岸からわずか300メートルに立地している3階建ての建物。そこへ、最初はすぐ近くの保育所や障害児童施設から、さらには近隣の住宅や事業所から、あるいは津波が押し寄せるのを見て移動中の車を捨てた人々が、集まってきます。

 

公民館に逃げ込んだ人々は、当初、2階のフロアに避難します。しかし、2階では危ない、もっと上へと叫ぶ青年の声を受けて、3階、そして狭い屋上や、斜めになっている屋根の上へと移動し、その移動が終わるか終わらないかのうちに、気仙沼の町に押し寄せた津波は、公民館の2階までもを水没させてしまいます。

 

やがて日が暮れて寒さが襲ってくると、人々は公民館のカーテンを使って保育所の乳幼児を寒さから守るなどの工夫をしていきますが、今度は気仙沼湾で火の手が上がり、水没している公民館の周囲にも、火のついた瓦礫が流れてきます。水没してどうにも逃げようのない中、燃える海にも囲まれて、しかし、公民館に避難した人々は、命を守るために、懸命の努力を続けていきます。重油と汚泥の混ざったヘドロや、水産加工場から流れてきた凍った魚に覆われた2階のフロアに足を踏み入れ、窓ガラスを割って流れ込んでいた材木などの燃えやすいものを拾うと、外の水の中に投げ捨て、燃える瓦礫によって運ばれてきた炎が公民館の内部に侵入してくることを防ぐのです。

 

そうした作業が行われる傍らで、また別の人々は、限られた通信手段を精一杯使って、自分たちの置かれている状況を外へと発信していきます。公民館から発せられた情報がバケツリレーのように伝わっていき、東京消防庁のヘリによる救出へと導かれる過程は、じつにスリリングです。ただ、このドラマチックな展開は、偶然ではないことが、本書を読み進めていくとわかります。446人全員が無事に救出される結末は、市井の普通の人々がそれぞれのできることをやった結果得られた必然、なのです。

 

本書の巻頭には中央公民館の各階の平面図が掲載されており、また、途中には周辺の地図も挿入されており、読み手の理解を助けてくれます。写真は、一切掲載されていません。だから、読み手は、映像から得られる印象といった先入観を抱くことなしに、テキストに集中していくことができます。この点も、ノンフィクションの醍醐味を味わわせてくれる、嬉しい点です。

 

希望を持ち続けることの大切さや、人間の素晴らしさを、あらためて、教えてもらいました。

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