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『ぼくは眠れない』椎名誠(新潮新書593)

『ぼくは眠れない』椎名誠(新潮新書593)

PB167092

2014年11月刊。

およそ不眠症などという言葉が似合わない椎名誠さんの不眠症睡眠薬常用告白と、眠りに関する本をたくさん読んだ椎名さんの睡眠不足考察。椎名さんの語り口は、いつものごとく、やわらかくて軽いのですが、書かれている内容は、けっして軽くはありません。

「35年間、不眠症」(帯のキャッチコピー)といっても、椎名さんは、365日×35年=12,775日にわたって毎日眠れていないわけではなく、何の苦もなく寝付けて、朝までぐっすりと眠れる、という日も、ときにはあります。それはなぜなのか?そうした場面ではいかなる条件が睡眠を快適にしているのか?等々の考察は、とても興味深いものばかりです。

サラリーマンをしているときと、会社を辞めてフリーのモノカキになってからの「眠り」で一番ちがったのは「逆算」する必要がないということだった。(中略)武蔵野の自宅から銀座にある会社まで、当時は乗り換え三回、一時間二十分はかかった。それを逆算して家をでることになる。そこから逆算して起床時間がおおよそ決まってくる。さらに逆算して寝る時間がそれなりに一定してくる。(中略)睡眠生活を中心にしたリラックスにはこの適度な心身に対する大波、小波とき荒波のまじった生活のリズム感、というようなものが案外大事なのかもしれない。そういうコトに気づいたのはサラリーマンをやめてもうだいぶたってからだった。(p.41-42)

 

私はこの箇所を読んで、へんな話ですが、安心しました。私自身はサラリーマンを辞めてから12年余の間、フリーとは言いながら、毎朝決まった時刻にどこかへ行かねばならない身分だった時期と、そうでない時期とがあって、前者の時期には「決まった時刻に行かねばならない」ことを苦痛に感じるときもあるのに、後者の時期になると「決まった時刻に行かねばならない場所がない」ことが苦痛になります。椎名さんの言う「逆算」をする必要がないことを気楽に思えるのは最初だけで、やがて逆算できないことが心身の不調につながってくるのです。

でも、安心している場合ではありません。

サラリーマンを辞めた椎名さんは、いわゆる夜型に生活時間をシフトさせることで、作家としての生活のリズムを整えていくものの、椎名さんの仕事には旅が欠かせない。旅先では昼間の活動が中心になるから、夜中に活動して明け方に寝るというわけにもいかず、夜はちゃんと寝るものの《夜中の二時とか三時頃に目を覚ましてしまうのだ。本を読んだりして対策するが、真夜中にはなかなか集中して本を読む気にはならないものだ。そこで知らない旅館やホテルの一室で悶々とするのである。(中略)そういう恐怖(大袈裟に聞こえるだろうが、精神的にはまさに恐怖なのである)を乗り越えるためにこれは「睡眠薬」がなんとしても必要だ、と考えるようになった。》(p.61)。

そうなんです。眠れないから昼間に眠くなる、とかなんとかよりも、眠れないことそのものが怖くて、精神的にはまさに恐怖なんです(これは私もわかります)。

睡眠薬と聞くと怖いイメージがありますが、眠れないことへの恐怖を抱き続けるぐらいなら睡眠薬を(医師の正しい処方のもとに)服用したほうがよいのだ、という話が、上の引用箇所に続けて、著者自身の体験談とともに語られていきます。

 

【目次】
1 はじまりは唐突にやってきた
2 勤めをやめるか、どうするか
3 ライオンのように眠りたかった
4 見知らぬ女が押しかけてきた5 なぜ眠る必要があるのだろうか
6 こころやすらかに寝られる場所は
7 睡眠薬は脳に何をしているのか
8 ポル・ポトの凶悪にすぎる拷問椅子
9 イネムリが人生で一番ここちよい
10 睡眠グッズはどれほど効くか
11 やわらかい眠りをやっと見つけた

 

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