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『サッカーと人種差別』陣野俊史(文春新書987)
Posted by 大熊 一精 on 2014年10月18日(土) 09:37
『サッカーと人種差別』陣野俊史(文春新書987)
サッカーと人種差別、というテーマで、すぐに思い出すのは、今年の春にJリーグの試合会場のスタンドに掲げられた「JAPANESE ONLY」の横断幕です。今年4月、スペインリーグの試合で、プレー中にバナナを投げ込まれた選手(バナナを投げ込むことは黒人選手への差別を表す)が、その場でバナナを食べたことが世界的に話題になったことは、まだまだ記憶に新しい出来事です。
そうした行為について、そのときどきで論評するのは、インターネットで即時に情報が伝わる現在では、さほど難しいことではないでしょう(現に「JAPANESE ONLY」の写真は、あえてそれを探したわけでもない私でも、何度も目にしました)。そして「差別は、よくない」と断ずるのも、当たり前であり、簡単なことです。
そうした中にあって、この本の価値は、海外(おもに欧州)のサッカーの周辺で起きている人種差別について、数多くの事例を収集していることにあります。引用が多いため、著者の地の文とは違うリズムの文章が入り混じり、最近の新書(短時間ですーっと読めるものが多い)にしては若干の読みづらさはありますが、むしろ、そこが、この本のポイントです。
この本そのものから結論を得るのではなく(結論を求めれば「差別は、よくない」に決まっています)、自らの日常にフィードバックするためのヒントを得ることのできる本、読者に多くの問いかけをしている本です。
スタジアムの中が特殊なのではない。人種差別的言葉の応酬が起こる背景には、その言葉が普通に使われる社会が存在する。社会の中で人種差別的言葉が横行しているからこそ、普通にスタジアムの中でも用いられている。特にメディアにのらないようなアマチュアが大勢を占める試合では、差別語の洪水となる。有名企業が有名選手を使って行うキャンペーンの限界がここにある。メディアの領域の外で差別が野放しになっている−−-そんなメカニズムが出来ている。
(第3章「差別と闘う人びと」)
※電子書籍(Kindle)で読みました。
このたび、こちらに書評を掲載させていただくことになりました。書評というのもおこがましく、読書後のよろず雑文、という感じになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。