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by 大熊 一精

大熊 一精
プロフィール

1967年生まれ、埼玉県川越市出身。
銀行系シンクタンクに12年間勤務の後、2002年から札幌市に移り住み、現在はフリーランスのコンサルタントとして活動中。 「一日一冊」を目標に、ジャンルを問わずに、本を読んでいます。読書量全体のうち、電子書籍端末で読む割合は3割ぐらい。 札幌市民になってからは、毎年、コンサドーレ札幌のシーズンチケットを購入し、2014年シーズンで13年目。週末ごとに悲しい思いをすることのほうが多いのに、自分が生きているうちに一度ぐらいはJ1で優勝してほしいと願いながら、懲りずに応援を続けてます。
著書「北大の研究者たち 7人の言葉」(エイチエス、2012年刊)


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1964年のジャイアント馬場(柳澤健、双葉社)

1964年のジャイアント馬場(柳澤健、双葉社)

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2014年11月刊。600ページ近い大作です。著者は『1976年のアントニオ猪木』(文藝春秋、文春文庫)、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(文藝春秋)などでお馴染みの柳澤健氏。これは読むしかない!

 

1964年の、と銘打たれてはいますが、1964年の出来事だけが書かれているわけではなく、ざっくり言えば、生まれてからこの世を去るまでの、ジャイアント馬場の伝記です。その一生を語るのに600ページ近い分量が必要だったのは、プロ野球選手からプロレスラーに転じた直後のジャイアント馬場について語るためには、当時の米国のプロレス事情を説明しなければならなかったからです。昭和30年代に日本人が(プロレスというやや特殊な世界の出来事ではありますが)米国へ出て行くとはどういうことなのか?

 

著者は、アメリカ大陸に渡って、当時を知る人々へのインタビューを行い、米国内にしかないであろう多数の一次資料を発掘することで、事実を拾い集めていきます。

 

では、なぜ、1964年なのか?

 

1964年と聞けば、東京オリンピックに東海道新幹線の開業がすぐにイメージされますが、プロレス界(というより当時の感覚では日本のエンターテイメント界なのでしょう)にとっては、力道山の死の翌年です。力道山が刺されて死んだとき、馬場はアメリカに滞在していました。そして、当時の馬場=日本国内の認識は海外武者修行中の若手レスラー=は、アメリカで、とんでもないギャラをもらえる大スターに成長していました。

 

大スター、すなわち、大金を稼ぐことのできる人間のまわりには、たくさんの人々が群がってきます。若くして大金を手にしたスターは、そうした人々に足を引っ張られて転落していく…というのが、よくある構図ですが、馬場は違いました。

 

 馬場は一瞬のうちに自分を取り巻く状況を把握する。
なるほど、それでわかった。日本プロレスにクビを切られたからこそ、東郷は自分と一〇年に及ぶ長期契約を結ぼうとしたのだ。俺を人間扱いしなかったグレート東郷と、力道山が死んだ時に連絡をくれなかった日本プロレスは、いまやなんとかしてこの俺を手に入れようと必死になっている。
悪くない状況じゃないか?
(p.382)

 

これが、1964年のジャイアント馬場です。

 

子供の頃からずっと、大きな体に向けられる興味本位な視線にコンプレックスを感じていた馬場正平が、《職業として、生きていくための最良の手段として、プロレスを選択》(p.76)して、プロレス入門から4年余という年月の間に、ここまでの存在になれたのはなぜか?

 

それは、馬場が非常に優れたアスリートであったからです。著者は、アスリートとしての馬場正平の姿を、さまざまな角度から描いています。馬場は、非常に高い身体能力がベースにあって、そのうえで、プロレスといういわばショービジネスの世界で生きていくにはどうすればよいのかを、冷徹に観察したのです。職業として(≒かならずしもやりたいわけではないけれど)プロレスを選んだ馬場は、自分が生きていくためには、自分が属している世界のルールを学ぶしかなく、そして馬場にはそれができた。そうやって、馬場は、トップスターへの道を歩んでいくのです。

 

でも、この本は、けっしてジャイアント馬場礼賛ではありません。終盤の、猪木・新日ブーム(私はまさにこの世代です)以後の馬場の評価については、かなりネガティブです。そうしたことも書かれていることは、この本の信頼度を高さの表れでもあるといえましょう。

 

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