札幌100マイル

読書の茶柱

Just another サイト 札幌100マイル site

2014年11月 の投稿一覧

『若者のすべて 1980〜86「週刊プレイボーイ」風雲録』小峯隆生(講談社)

『若者のすべて 1980〜86「週刊プレイボーイ」風雲録』小峯隆生(講談社)

PB057061

甘酸っぱい青春は苦手だけど(自分にそういう想い出がないからか?)、女性がほとんど登場しない成人男子20代のバカ話は大好きです。エネルギーがあり余っちゃってるんだけど、それをどう使ったらいいのか、どこへ持っていけばよいのかがわからない。近年でいえば森見登美彦さんの小説、古くは椎名誠さんの一連の作品が、その代表格でしょう。

今回紹介する作品がそれらと異なるのは、まず、小説ではなくノンフィクションであること(椎名誠は小説とノンフィクションの両方を書いてますが)。主人公(著者)は大学を卒業している(「青春」というにはやや年を食っている)こと。そして、主人公(著者)がお金には困っていないこと。

ノンフィクションなので、当時の実際の風俗(いやらしい意味ではないですよ)が、たくさん出てきます。カフェバーは一応説明がありますが、戸塚ヨットスクールや、夏休みの新島といった、同時代を生きていなかった人にはまったくわからないようなことが、何の注釈もなしに語られていきます。そうそう、カフェバー、あったよね〜、とか、夏目雅子が亡くなったのと三浦和義が逮捕されたのは同じ日だった、とか、そんな記憶が蘇ってきます。

ただ、この本では、時代のアイコン的な事象は、あくまでも飾りです。最近は1980年代が黄金の時代だったといった語られ方をすることが多くなってきて、それは当時バリバリだった人々が往時を懐かしむ年齢になっちゃったってことなのかな?と少し寂しい思いをすることもあるのですが、この本に描かれているのは、時代の風景ではなく、ひたすら著者の日常=週刊プレイボーイの編集部での仕事です。

仕事が忙しすぎて仕事以外の時間がほとんどないから、仕事の話しか出てこない。仕事の話しか出てこないはずなのに、下ネタだらけ。といっても、当時の週刊プレイボーイといえば、表紙や巻頭のグラビアしか印象にない方が多いかと思いますが(と他人事のように書いてますが自分がそうなんですが)、著者はグラビア担当ではなくニュース記事担当なので、そっちの話はほとんど出てこない。

気楽に読める本ですが、文字数は多いです(本文は二段組)。
気楽に読めますが、深いです。

『夕張再生市長 課題先進地で見た「人口減少ニッポン」を生き抜くヒント』鈴木直道(講談社)

『夕張再生市長 課題先進地で見た「人口減少ニッポン」を生き抜くヒント』鈴木直道(講談社)

PB037053

著者は現職の夕張市長。どうせ選挙対策だろう、などと色眼鏡で見ることなしに、とにかく、読んでみましょう。実際に現場で奮闘してきた人の言葉には、第三者が書いた記事や論文には絶対に出せない迫力があります。

副題の「課題先進地」とは、夕張市が直面している課題は、やがて全国各地の自治体が直面することになるであろう課題である、との意味です。すなわち、人口減少、超高齢化、税収の激減、その結果としての財政難、そして財政難に伴う市民生活の破綻…

30歳という若さで夕張市長になる著者は、当初は、東京都からの派遣職員という形で夕張市役所に赴任します。夕張市の厳しい財政事情はもちろん承知していたものの、実際に夕張で生活を始めてみて《一八年後、たとえ計画通りに財政再建がなったとしても、まちが疲弊し、住民が笑顔で毎日の生活を送れなくなってしまっていたとしたら、まさしく本末転倒である。》(p.42-43)ことに気づきます。

そこから何をしたのか、なぜ市長になったのか、市長になって何をしたのか、等々は、本を読んでいただきたいのですが、国と地方自治体の関係や、地方財政の制度上の問題もさることながら(それはそれでとても重要なことなのですが)、結局は「人」であり、粘り強く信頼関係を築き上げていくしかないのだということが、読み終えてもっとも強く感じたことでした。

『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール(NHK出版)

『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール(NHK出版)

IMG_9469

日米同時発売、日本語版序文は瀧本哲史氏(『僕は君たちに武器を配りたい』『君に友だちはいらない』)との触れ込みで、紙の本と同時に電子書籍(Kindle)版も刊行された本です(私はKindleで読みました)。

ジャンルとしてはビジネス書として位置付けられ、書店ではそうしたコーナーに並べられるのだろうと思われますが、この本には、「いますぐ◯◯をやればこうなります」といった即効性の高いノウハウは、一切、書いてありません。ビジネスを進めるにあたって使える戦術的な事項もないわけではないのですが、全般には、戦略レベルよりさらに上のレイヤーの、いわば「心構え」が綴られた本です。

こういう本がおもしろく感じられるかどうかは、読み手の問題意識によって、大きく変わってきます。

2009年に話題になった『フリー』という、これもNHK出版から刊行された翻訳本があります。私は、この本を、刊行直後に読みました。当時参加していた勉強会のテキストに指定されたから、なのですが、勉強会のテキストになった理由は「これは素晴らしい本だからぜひ読むべきだ」というものでした。

しかし、これといって新しいことが書いてあるようには感じられず、何がすごいのか、さっぱりわかりませんでした。

ところが、それから何年か経って、自分自身のビジネスの課題と『フリー』の内容がシンクロしてきたような気がしてきて、再びページを開いてみたら、すいすい頭に入ってくるし、さまざまな刺激があって次から次へとアイデアが湧いてくる。

ここで紹介する『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』も、その類の本だと思います。基本的には起業家やベンチャー投資家向けの内容なので、それらと関係のない方の多くにとっては、何の面白みも感じられない本、だと思います。でも、起業家や投資家でなくとも、これから新たなビジネスを(起業に限らず会社員の立場での社内プロジェクトであっても)始めようと考えている方や、現状維持の延長線上に漠然とした不安を感じている方には、ご自身の問題意識をできるだけ具体的な姿にしたうえで、この本を読むことを、強くお勧めします。

絶滅か、それとも進歩か。それは僕たち次第だ。未来が勝手によくなるわけはない—ということは、今僕たちがそれを創らなければならないということだ。(中略)今僕たちにできるのは、新しいものを生み出す一度限りの方法を見つけ、ただこれまでと違う未来ではなく、より良い未来を創ること—つまりゼロから1を生み出すことだ。そのための第一歩は、自分の頭で考えることだ。
(終わりに 停滞かシンギュラリティか)

 

『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』猪瀬直樹(マガジンハウス)

『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』猪瀬直樹(マガジンハウス)

IMG_9468

涙なくしては、あるいは、泣けた(泣ける)といった言葉は、いまの時代にあっては安っぽくなりすぎて、使うのが憚られる形容句です。

それでも、この本に関しては、涙、という言葉を使わざるを得ません。

読んでいる途中で、何度か、涙がじわっと滲んできて、電車の中なのにと、自分自身に困惑しました。

妻への(まったく予期していなかった)余命数ヶ月の宣告と、そんな私事とは無関係に流れていく東京都知事としての多忙な日々=オリンピック招致という日常以上に多忙な日々=を記録した第一章「ある日、突然に」。

妻への感謝を、ありきたりの美辞麗句を並べるのではなく、妻との日常を綴っていくことで描いた第二章「何もなくても愛があれば」。

そして、思いがけずに副知事そして知事へと転身し、しかし自らの《軽率な行動が都民の負託を裏切ることに》なった経緯を率直に《お詫びするしかない》と振り返る第三章「走り抜けて」。

多くの人に読んでほしい本です。

pageTop