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爬虫類と猛禽類のDeepな世界。

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2011年11月 の投稿一覧

良い夫婦の日に語らせて。

今日は「良い夫婦の日」なんですってね。
素敵で粋な語呂合わせにしばし感心しております。

当然、動物にとっても「良い夫婦」というか「個体間の相性」ってすごく大切。
特に繁殖を確実に進めていくには、飼育技術、飼育環境うんぬんよりも、相性の良いペアやそれを作るためのコロニーを確保できているかが最も重要な条件となります。 
だから、例えばある種の繁殖計画が決まった段階で動物園や飼育員が最も力量を発揮しなくてはいけない場面は「飼育個体の導入時」なんですね。
現環境において最も適した個体のイメージを明確化し、そして理想的な個体を探し確実に導入していく。

野生由来もいれば、飼育下産まれもいるし、親に育てられたのもいれば、途中から人間に育てられたりってのもある。
人工保育の場合もあるし、人工保育でも集団で育てられた場合もある。
親兄弟と暮らした期間が長いのもいればすぐに離された場合もあるなど、同種であっても育ち方によって全く異なる性質を持ってますからね。
来たはいいけど自分たちの環境においては全く不適切だったという事も多々あります。
だから事前に考慮すべき事項は山とあるわけです。
でもこうした当たり前に思える作業が実は非常に難儀でございまして、実際は不十分であることが多いんですよね。
結果、長期にわたって無駄な努力をしていくこともあるし、種によっては相性が悪くどちらかが殺されてしまう事もあります。
単にオスとメスが入ればいいってもんではないんですね。

そして本当に相性の良いペアって同居して1年目から繁殖しちゃうことが多いんです。
例えば猛禽類やオランウータン、ネコ科の一部なんかもわかりやすい。
そういうペアって最低限必要な環境を提供した上でなら、飼育場所を変えようが、餌を変えようが、あまり関係なく継続して繁殖していく。
とにかくペアの相性が重要なんです。
だから環境や管理が悪いわけでもないのに数年たっても何もおきないような場合は、早めに見切りをつけ積極的に個体の入れ替えを行なっていく必要があると思います。
大変な労力なんだけど繁殖を目的としているのなら当然背負わなくてはならない義務なんですよね。  

では爬虫類や両生類はどうなのか。
これらの繁殖は飼育環境のコントロールによるものが主なんだけど、それを踏まえた上で最も重要な事は「優秀なオス」を確保できているかどうか。
優秀なオスってのはどんなメスにも受け入れられてしまう「奇跡のオス」。
こういう男前のオスは元々の素質もあるけど、環境によって後天的に作出されることもあります。

あと確実に繁殖を狙うのなら1ペアでは難しいです。
最低でもオス3、メス2くらいが必要。
そもそもオスは虚弱でメスより先に死ぬことが多いし、あと交尾誘起の際に「当て馬」的な役割のオスも必要。
競わせ、争わせる事でより強い求愛行動に繋げていくんですね。
ヘビなんかだと他のオスの脱皮殻を入れるだけでも効果があったりします。

そんなこともあって複数飼育は必須なんです。
個体数を確保しておけばその都度もっとも良いペアを状況に応じて作ることができるし、その「奇跡のオス」が出てくる可能性もぐっと高くなります。
例えば円山動物園の繁殖しているヨウスコウワニペアは元々4頭いた中から作られたんです。
現在爆増中のヤドクガエル類なんかも5匹の中からペアになったものを別飼いして繁殖用として管理しているんですよ。
繁殖に至るまでって単純ではなくて、こういった過程があるんです。

欧米の動物園が確実に結果を出しているのは、技術や環境ってのもあるんだけど一番はこの部分なんですね。
とにかく繁殖に適した個体を多数ストックしながら、継続した繁殖を進めている。
しかも各園館がそういう状況なんで、血統管理も国内、地域内でできてしまうんです。
展示の裏では様々な努力があるってことなんですね。

人間の場合はどうなんでしょうか?
では皆様、良い夫婦の日をごきげんに過ごしてくださいね。


奇跡のオス(スペングラーヤマガメ・Geoemyda spengleri)

ムカシトカゲ。

最近ですね、来園者の方からたまに質問されるんですよ。
「すいませーん、ムカシトカゲはどこにいるんですか?」って、ほんと驚いちゃいますよね。
だってムカシトカゲなんてそんな貴重なびっくり生物、円山はおろか日本中探しても見ることはできませんから。
ではなぜごく普通の奥様方からそんなマニアック生物の名前が出てくるのか?
原因はこれなんです。


旧爬虫類館に設置していた看板、古き良き昭和感漂うレトロな一品です。
現在は新施設入口前の工事現場の擁壁に設置されておりまして、これがまたやたらと目立つのです。
そんなこともあってか円山でも飼育しているって勘違いしてしまう方もいるようなんですよ。

ムカシトカゲはニュージーランドにのみ生息(現在は2種類)しておりまして、独立した目に属しています。
つまり爬虫類ってのは、ワニ目、カメ目、有鱗目(ヘビ、トカゲ、ミミズトカゲ)、ムカシトカゲ目で構成されているんですね。
だからムカシトカゲはトカゲの仲間ではなく「ムカシトカゲ」なんです。
そう、なんだかとてもめんどくさい存在なのです。
ただ爬虫類を語る上では決して欠くことのできない位置にいますからね、やはり多くの人にこのトカゲの事、いや違うムカシトカゲの事を知って欲しいと思っております。
そして実は僕、初めて告白させてもらいますがこの貴重なムカシトカゲに触れた事のある数少ない日本人の一人なんです。
しかも2度も。ぐへへ。


まずはアメリカ・サンディエゴ動物園にて。
これがムカシトカゲ(ギュンタームカシトカゲ)。
トカゲではありません、ムカシトカゲなのです。
2億年前から変化していないと言われていてます、まさに生きた化石なのです。


質感はというとですね・・・なんかプニュプニュしております。
ムカシトカゲの質感としか言いようがありません。
なんとも2億年の歴史を感じさせてくれるエキセントリックな肌触りです。


こちらがムカシトカゲ専用の非公開施設、実に立派です。
入った瞬間はすごくひんやり、施設内は冷房管理されていて気温は17℃。
ムカシトカゲはですね、爬虫類の中でも最も低温条件下に適応している種なんですよ。
他の爬虫類なら冬眠するような温度でも、ムカシトカゲにとっては適温なんですね。
そして非常に長寿なことでも有名です、寿命はゾウガメ並みの100年以上。
こちらでは複数頭が飼育されていましたが、まだ繁殖には成功していないようです。
そしてこちらはドイツ・ベルリン動物園の飼育個体。


実に立派な個体です。
こちらも冷房付の部屋で管理されており、vip待遇でしたがやはり繁殖は難しいとのことでした。
ムカシトカゲの繁殖で有名なのは現地ニュージーランドの施設でして、数年前に
111才のオスが始めて交尾し繁殖に成功したというニュースが話題になりました。
そしてお相手は30才年下のメス、つまり80才。
あっぱれムカシトカゲ。


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