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爬虫類と猛禽類のDeepな世界。

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『新爬虫類・両生類館』カテゴリーの投稿一覧

野草の季節。

やっとこの時期になりました。

草食性の爬虫類たちの主食である「野草」と「花」がふんだんに使える季節。

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この時期の若芽が一番うまそうです。

冬期は仕方なしに市販の野菜類を与えますが、所詮代用食。これによって体調がおかしくなったり、飼育が困難になるという状況はないですが、長期的には使いたくない。やはり市販の野菜は人間用に作られた物、嗜好性は高く食いつきは良いですが、カロリーが高すぎたり、繊維質が足りなかったりと、まあ主食としてはふさわしくないわけです。

あ、あと嗜好性の高い物って食いつきが良い分「良い物」っていうイメージがあるかもしれませんが、真逆です。はっきり言っちゃうと嗜好性の高い食べ物ほど、与える必要がないものがほとんど。動物たちが好むものって、人間もそうですが糖分が高くて高カロリー。しかもただでさえ運動量の少ない飼育下においては、そんな物を毎日主食として摂取するにはヘビーすぎます。上手に使うことができないのならいっそ与えない方がよっぽど良いわけです。

本来野生動物は食料の少ない環境で進化適応してきました。だからいかに「豊かな粗食メニュー」に順応させていくかが重要なんです。毎日ヘビーなうまい物ばかり食べているような個体が、本来食べなくてはいけない「豊かな粗食メニュー」なんて口にするわけがないのです。

最近イギリスの動物園で、サルに対してバナナ使用するのを禁止にしたというニュースがありましたが、爬虫類の管理経験がある人間にとってはごく当然のことで、爬虫類に限らず飼料としてのバナナの使い方の難しさをを知っています。ちなみに爬虫類館では15年以上、通常飼料としてバナナを使用してません。バナナどころか他の果実類もある特定の種を除いては使用していませんからね。

爬虫類のような低代謝の動物はこのような高カロリー食の影響をモロに受けます。例えばリクガメ類にひとかけらのバナナ(人間にとっては小さなカケラでもその個体にとってはそれだけで生命を維持できるくらいの量)を毎日与えたことにより、本来食べなくてはいけない葉物類をも拒絶するということが極めて普通に起こります。つまり問題が表面化しやすいわけです。だから早い段階で警笛が鳴らされる。しかし他種(例えばほとんどの雑食性哺乳類など)においては、常に「甘いものは別腹機能」が働いていますから、満腹状態でも甘くて美味しい物はいくらでも受け付けます。しかしそれによる影響が様々な問題によって表面化しないことが多く、または表面化しているのにも関わらず管理者側が鈍感だったりして日々状況が悪化してしまっている場合も多いのです。人間もそうですが、ほとんどの動物達も長年の不摂生によってすぐに死ぬことはありません。長期的な視野に立って今何を与えるべきかを日々考えていかなくてはいけませんね。

まあそんなこともあって爬虫類両生類館ではとにかく野草類重視なのです。

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春から秋にかけては野草刈りが僕の主な仕事です。

うれしいな。

 

エゾサンショウウオの孵化。

エゾサンショウウオの展示場。

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今シーズンの産卵は1月という異例の早さだったのですが、

厳冬期を無事に乗り切り2ヶ月以上かかって孵化が始まりました。

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やはりエゾという名のつく動物が繁殖するとものすごく嬉しい。

エゾの飼育員として、エゾと名のつく動物には責任を持ちたいと常日頃から勝手に思っているのです。

ちなみに北海道に生息する爬虫、両生類で北海道固有種はエゾサンショウウオとエゾアカガエル。

だからこの2種については継続した繁殖と累代飼育を視野に入れ、日々頭の中でエネルギーを注いでいます。

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この成果は動物園業界にとっては、とても地味で小さな一歩かもしれませんが、

北海道の動物園そして地元の動物を心から愛する有志にとっては大きな一歩なのです。(アームストロング風)

 

光の周期。

爬虫類両生類館では各ゾーンにごとに光周期を管理しています。

それぞれの季節性に合わせ日長時間の年変化を提供しているわけです。

例えば北海道産ゾーンの日長は夏季は最大14時間、冬季ですと最低8.5時間。

いま時期は16時で消灯、真っ暗です。

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照明は蛍光灯とメタルハライドランプの2段階になってまして、メーン照明である蛍光灯は地下のタイマーで管理しています。

この蛍光灯は動物にとって有効な紫外線を照射する爬虫類専用のものを利用しています。

 

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光周期は赤道やその付近の動物なら12時間、その他のゾーンは季節ごとに大幅に変わります。

特に繁殖予定種などが暮らすゾーンは、生息地とは異なるよりパンチの効いた光周期を提供しています。

野生とは異なる現環境において、新しいリズムを再確立することも重要ですから。

メタルハライドランプのタイマーは各ゾーンごとに設置されています。

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メタルハライドランプは強い光と熱を放射するランプでして、自然界でいう「晴れの日」の再現です。

このランプは基本的に、蛍光灯より1時間遅く点灯し、一時間早く消灯しています。自然界でいう薄明状態の提供です。

いきなり暗くなったり明るくなったりという状態はいくら不自然な飼育下とは言え、不自然すぎますでしょ。

 

という感じでここの施設では温度だけではなく、同時に光の年変化も提供していきながら、動物達の体内リズムを整えていきます。

人間だけが「一定した変化のない安定した環境」が心地良いと思い込んでいるみたいです。

上手に脱がす。

脱皮中のマツカサトカゲ。

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こんな感じでツルっとキレイに剥けてくれるとホッとします。

というのも脱皮時のトラブルってのは割と多くてですね、勝手に剥けてくれるってものではないんですよ。

特に厄介なのが乾燥地帯に生息するトカゲの仲間でして、うちの場合ですとマツカサトカゲ。

原因は「乾燥環境」を意識するあまり、環境全体が「乾きすぎて」しまっていること。

これによって皮が綺麗に剥けず部分的に残ってしまうわけです。特に注意しないといけないのは「指」で、ここの脱皮不全が続くと指自体が欠損してしまいます。

実際脱皮不全により指が欠損してしまっている個体は飼育下ではかなり多いんですよ。そのため脱皮時には微妙な水加減と湿度加減を提供していく事が大切なわけです。

通常時、円山動物園ではタイマーで1日1回2分間の雨を降らし一時的に地面を濡らします。そしてその水分を床暖で温め徐々に蒸発させることで空気中の湿度を適切に維持しているんです。

しかし脱皮時はこれでは不安なので、雨の回数を増やし地面が常に濡れている状態を維持します。これによって正常な脱皮を促し、指の脱皮不全も防ぐことができるんですね。カラッカラの札幌ではこれくらいやらないとダメです。

 

「行動させる事」ではなく、「目に見えない形のない環境要素をコントロールすること」これが爬虫類の環境エンリッチメント。

気持ち良く脱いでもらうためには事前のお膳立てが必要となるわけです。

ちなみにこのトゲチャクワラも脱がすのが大変な種です。

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我々はもっともっと「脱がし上手」になれるようトカゲたちの気持ちを察していかなくてはいけません。

情報は冷蔵庫に貼れ。

どこの家庭でも重要な情報はたいてい冷蔵庫の扉に貼ってあるわけです。

例えばゴミの収集カレンダーや給食の献立表、占いカレンダーや座右の銘、そして犬のフィラリアの薬を飲ませる日など、暮らしの中で日々確認していかなくてはならない情報が多いのではないでしょうか。

実は爬虫類両生類館でも全く同じでして。

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それがこれ。

これは今後新たに繁殖を進めていく種の生息地の「最高最低気温」と「降水量」のグラフです。

爬虫両生類は、一定の環境下で管理していても生きてはいけますがそれ以上は何にも起きません。

彼らはそれぞれ生息地の環境に晒される中で一年の暮らしのリズムを確立し、適切な時期に繁殖し種を残していくという習性を獲得してきたわけです。

そのため、飼育下で繁殖を行うためには種それぞれの生息地における「季節性」をある程度再現し提供していく事が必要となるんですね。

爬虫類両生類館ではゾーンごとに環境を操作できるように設計されておりまして、施設内において様々な季節性を同時に作り出すことが可能となってます。

だから施設の中は、ここのゾーンは冬で隣は秋、向かいは春で、あちらは夏、そしてこっちは雨季であっちは乾季、みたいに季節の移ろいが不規則に同時進行しているわけです。

しかし日々同時進行で流動させていく様々なパターンの環境の調整と確認は意外と大変でして、ちょっと気を抜いたりすると、絶好の機会を逃してしまうという事も多々あるんですよ。そうなると来年またやり直しです。だから常日頃から種ごとにおいての季節性のデザインを意識的に確認していくことが重要となるわけです。

「情報は冷蔵庫に貼れ」人類が編み出した最大の知恵ですね。

 

 

 

 

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