札幌100マイル

爬虫類と猛禽類のDeepな世界。

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ワニ舎の掃除と可憐な動き

「最も安全な場所から、最も危険な作業を眺めるほど楽しいことはない」
これはあるアメリカの動物園のワニ舎の前に掲示されている文章です。

なるほど、ウィットに富んだセリフだな。
たしかに僕がワニの掃除に入るとなぜか人が集まります。
みなさん何を期待しているのだろう。


ここはガビアルモドキ展示場。東尋坊ではありません。
4m近い5匹のワニが暮らしています。
崖の下にはガビアルモドキ君達。
後ろを振り返れば・・・


奴がいます。



ガビアルモドキは熱帯アジアの一部に生息するクロコダイル科のワニ。
性格は神経質です。絶滅に瀕しており国際的に動物園での繁殖事業を行なっていますが、あまりうまくいってません。円山でも産卵まではいくのですが、繁殖には成功しておりません。

普段は剥製のように動きませんが、捕食の時と危険を感じて逃げる時は異常に素早い。
口が細いですね。これは水中ですばやく魚を捕獲するためこのような形をしています。

飼育されているワニってのは大抵おとなしい個体が多いんです。
人が寄っても全然平気な無気力ワニ。
餌の与えすぎで太って泳げないワニ。
やっぱり飼育下のワニってどこかおかしい・・。

人が寄れば、水に飛び込み逃げる。
間合いを詰まれば襲い掛かってくる。
餌を見せれば、素早い動きで捕食する。
ワニはこうでなければなりません。
これが僕の持論です。

当然うちのワニ達はそれらの条件を満たした素晴らしい個体ばかり。
完璧なプロポーションと尖った性格。
どこに出しても恥ずかしくない個体です。

よくお客さんに聞かれます。
「どうやって掃除してるんですか?」
「掃除の時ワニはどこに移動させるんですか?」

「そのまま入っていくんですよーえへへー。」
ワニの掃除に必要なのは、デッキブラシでもホースでもありません。
「勇気」です。勇気リンリン。
そして少々の運動神経。

周りの人達は僕のことを運動音痴の虚弱体質と思ってるようですが、違います。
腕相撲だって中2くらいまでなら圧勝だし、走らしたら主婦には負けません。
「ためしてガッテン」とか観てたから知識も豊富、たまにストレッチなんかもしてたしね。
光ゲンジ世代だからバク転やバク中だって朝飯前です。

ってことでワニの掃除のお話です。
これが大変なんですよ。
こっちも隅々までキレイに洗いたいんですが、隅にはワニがいます。
そしてでかい体でダムを作り、汚れた水をせき止めるんです。
水をかけようが、後ろから突付こうがピクリとも動かない。
意を決したワニは頑固なのです。


20070412-02.JPG

これじゃあ掃除になりません。
日曜日の奥様の気持ちがよくわかります。

んでしつこく移動させようとすると、今度は物凄い勢いで向かってきます。
ここでアドバイスです。ワニに横から近づいてはいけません。
彼らは頭を素早く振り、横と後ろにいるものを一瞬で攻撃できます。
だから正面から近づくほうがわりと安全。ほんとわりとだけどね・・・

でもここは運動神経抜群の僕です。
手に持った掃除用具を一瞬で投げ出し、ブラックマンバように身をひるがえします。
そしてジョンストンワニのようにジャンプし柵を超え逃げるのです。
展示場には主人を失ったゴムホースだけがウネウネと寂しく水を放出・・・

「今日の俺、イカシテルな。」
自分の可憐な逃げ方に自画自賛。

そしてふと我に返ると、目の前には大勢のお客さん。
みなさんそろってキョトンとした顔。
「ん?」

襲ってきたワニはというと、なんとなくのんびり。
ただ方向転換しただけの様子、寝返りみたいなもんです。

へたれ飼育員、今日もやっぱり顔がほてります。
そして閉園間近までバックヤードにひきこもるのです。

ではみなさん素敵な週末を。






















ん?セミか?

みなさん、知能の高いカメと言えば?
そうですね、モリイシガメですね。

では運動能力が最も高いカメは?
残念、それはオオアタマガメです。


んでこれがオオアタマガメ。


現在展示はしておりませんが、バックヤードで飼育しています。
よくみてください。尾が長く、甲羅は平べったいです。
爪が鋭いです。そして頭がでがすぎます。

「これじゃあ甲羅に頭引っ込めないんじゃねーの?」という方もおります。
ええ、引っ込みません。

彼らはカメの特徴を捨ててしまったのです。
その開き直りっぷりに強い意志を感じます。

このカメはアジアに生息し、渓流など流れの強い川に生息しています。
でかい頭でバランスを取り、また薄くて軽い甲羅のおかげで機敏に動けます。
資料によるとなんと分速8mで走るそうです(早いんだか遅いんだかわからない)。

そして鋭い爪を利用しどこでも上ります。木にも登るんです。
んで極めつけは長い尾、尾には筋肉が発達してていろんな物に巻きつけることができます。
木に巻きつけてぶら下がったりもしちゃうんです。
想像の域を超えています。

そんなオオアタマガメ、展示しないのには訳があります。
逃げるんです。

以前は現ミシシッピーアカミミガメ展示場で飼育されていました。
ある日、前を通ると何かが壁を登っているんです。
「ん?セミか?」

いや違う、カメです。
カメがセミみたいに垂直の壁を登っているのです。
20070410-02.JPG

ほんと冗談は顔だけにしろよって感じなんですが、早急にネズミ返しを設置し脱走防止を行ないました。
これでもう安心です。

しかしある日曜の夕方、
展示場の前を通ると何かがネズミ返しの上にいるのです。
「ん?セミか?」

いや違う、カメです。
ネズミ返しをクリアーしているカメがそこにいるのです。
たぶん横に生えてる木を利用したのでしょう。

「ビッグヘッド君、君には負けたよ。」

ほんとうはこのカメの驚異的な立体行動を来園者に伝えたかったんです。
でも実はね
このカメは夜行性。
開園中はピクリとも動きません。

そっちがネイチャーならこっちはサイエンスじゃい!

昨年12月、あるニュースが世界を揺るがした。
「コモドオオトカゲの単為生殖を確認!」

イギリスのチェスター動物園で飼育されている♀のコモドオオトカゲが
♂と接触することなく有精卵を産み、孵化したというニュース。
つまり交尾もしてないのに子供が産まれたってこと。

情報源は世界で最も権威のある科学雑誌「ネイチャー」に掲載されたものなので間違いないでしょう。

単為生殖をする爬虫類は他にも数種が知られていますが、
まさか世界最大のオオトカゲが・・・・

「ありえねー」誰もがそう思いました。
ほんとありえない。
輸入されたてのツマベニナメラがいきなりピンセットから餌を食うくらいありえないことなのです。

でもね
僕はじぇんじぇん驚かなかったんだなー
「へーそうかい?」ってなもんですよ。

なぜなら我が円山動物園でもそういう事例があって大学と共同研究してる最中だったから。

実は最近オオトカゲが単為生殖するって情報が密かに流れていたんです。ドイツの動物園で飼育されていたグールドオオトカゲが単為生殖した、ロンドン動物園で飼育されているオオトカゲが2年以上♂と接触していないのに産卵、孵化したなど。

んで我が動物園のミズオオトカゲ。
♂と7年も接触していないのに子供が産まれました。

ある日僕が掃除のため展示場に入ったら足元を小さなトカゲが走っていたんです。
「ん?」
捕まえてみるとまぎれもなくミズオオトカゲの赤ちゃん。
「なんで?」
うちにはミズオオトカゲの♀を1頭飼育していました(昨年死亡)。
この個体がどっか(たぶん展示場内にある深い穴)で産卵し、それが孵化したのでしょう。
でもうちには♂がいない・・・・

最初は以前お話した「爬虫類の精子貯蔵」だと思ってましたよ。
でもさすがに7年の精子貯蔵はいくらなんでも無理。
考えられるのはただ一つ。

それは「単為生殖」

「お前がペット屋で買ってきて放したんだろ」
一時は「ゴッドハンドの捏造疑惑」も流れましたがそんなことはしておりません。

現在事情により大学との研究は中断しておりますが、
なんとか科学的に証明したいと思っております。


「ふん、そっちがネイチャーならこっちはサイエンスじゃい!ぶひー!」























足長おじさん、ありがとう

最近スネークアートの会場に付きっきりなもんで、飼育業務が手薄であります。

日本の飼育係って何でも屋なんです。
飼育技術者であることはもちろん、時には教育者、時には保護活動家、時には大工、時にはペンキ屋
、時には営業マン、特にはイベント屋、時には歌い手(ハッピーバースデーレディー)など
まあ色々やることがあるわけです。

んで業務が重なるとみんなで助け合って乗り切るわけです。
でもね、爬虫類館ってなかなか難しいんですよ。
だってどこに何がいるのか僕しか知りませんから。

んで爬虫類でしょ?
「ジムグリの様子見て食べたそうだったらピンクマウス10匹あげといて」とか
「レップカルでダスティングした2令コオロギを別飼いコモチカナヘビにあげといて」とか
何のことやらわからないわけです。

でもね・・・
合間をぬって爬虫類館に出向くとちゃんと世話してくれてるんですよー。
「100万ぺソの笑顔」こと吉田さんが気を使ってやってくれてるんですね。
しかも、ネズミ室(餌用ネズミの飼育部屋)の掃除(床材交換、かなりめんどくさい)まで・・・。
フリーフライトや猛禽のトレーニングも任せちゃってますから
ほんとに毎日助かっております。ありがとうございます。

あと僕は祐川さんの休みの時はチンパンジーの代番をやってるんですね。
チンパンジーは通常二人で代番をやるんです。僕と海獣担当の土佐さん。
んで会場の準備なんかで遅れてしまうと、土佐さん一人で掃除、餌やり、レディの授乳なんかも
すべてやってくれてるんですね。いやー本当に感謝です。ありがとうございます。
まあ二人に限らずいろんな方にカバーしていただいて僕もイベントに専念できてるわけなのです。

でもね、不思議なことがあるんですよ。
んーかれこれ半年くらい前からなんですが、ネズミ室の水換えをやってくれてる人がいるんです。
飼育課の人に尋ねても誰も「おれじゃねーよ」ってな具合でほんとにわからない。
ネズミ室は一般の人が入れる場所ではないので職員の誰かのはずなんですが
全くわからんのです。まあ助かってるんで今は誰でもいーやって思ってるんですけどね。
まだ見ぬ僕の足長おじさん、いつもありがとう。

今宵はちょっと心温まるお話をさせていただきました。
ではおやすみなさい。

土佐飼育員
土佐飼育員。やさしい人。
「梅図かずお」じゃないからね。間違えないでね。
赤白ボーダーシャツじゃないのが悔やまれます。

それはいつも休日中

今日は休み明け。
先日交尾させたカンボジアモエギハコガメのケージを覗いてみる。

あっ・・・・産んでるな。
ゆっくり土をほっくり返してみると・・・

カンボジアモエギハコガメのたまご
ほらね。

10日程前から餌を食べず、ケージ内をしきりに動き回っていた♀。
これは産卵前の兆候です。あーもうすぐ産むなーとは思っていたのですが、
毎年必ず僕の休日中に産むんですよねー。
動物園では担当者のいない日に何かが起こるのです。良いことも悪いことも・・・


もちろん先日交尾させてすぐに卵を産んだわけではありません。
爬虫類っていうのは「精子貯蔵」をする動物なんです。
一度交尾すると♀は体内で精子を生きたまま貯蔵するんです。
んで良い時期に受精させて産卵する。

つまり1度交尾すれば数年間は有精卵を産む事が可能なんですね。
だからこの卵もいつの精子と受精したのかはわからんのです。
それだけ自然界では配偶者と出会う機会が少ないってことです。
1度の出会いで数年は種を残せるようにするっていう戦略です。
少ないチャンスを有効に使うんですよねー。
なんとも合理的で神秘的な特徴。

んでこのカンボジアモエギハコガメの場合、たぶん3年は交尾させなくても産卵可能です。
でも交尾させないでいると年々有精卵が採れる確立も下がります。
一応動物園では年に2,3回程度交尾させて、毎年確実に有精卵を採ってます。

時期はいつでも良いんです。
交尾さえさせればあとは♀のリズム、タイミングで産卵してくれますから。

たまご02
んで卵をよーく見てください。真ん中が白くなってますよね?
これは、卵の発生がはじまってるんです。つまり有精卵。
産んだ直後は透き通った感じなんですよ、んで2日くらい経つと発生が始まり白濁してくる。
だからこの卵はたぶん2日前くらいに産んだんでしょう。
無精卵の場合はずっと透き通ったまま。

でかいっすよね。単一電池と同じくらい。
♀は甲長14cmくらいなんで体の割りにはかなりでかい卵を産みます。
だから他の種のように一度に何個も産まないんです。
この個体は一度に1個。んで年に3回程度産みます。

んでこれが孵化装置。
たまご3
まったくアナログな方法ですが、これが1番良い。
このカメは落ち葉が堆積したような湿度の高い森林で暮らしています。

必要な孵化環境は、まず「多湿」と「通気性」そして「ある程度の温度」。
普通カメは深く穴を掘ってそこに卵を産みます。
でもこのカメは違う。
必ず浅い場所に産むんです。

たぶん自然界では落ち葉の下とか朽木の下なんかにさらっと産んでるじゃないかなー。
浅いってことはそれだけ通気性が必要ってこと。
通気性と多湿という矛盾した環境を提供するのです。

卵1個に対して、大きなケースとたくさんのミズゴケ。これは長期間環境を安定させるためです。
このたっぷりのミズゴケが長期間十分な湿度と通気性を確保してくれるんですねー。
んで温度は適当。室温にまかせてます、だいたい18〜27℃くらい。
この環境でだいたい110日くらいで孵化します。

まだまだ先は長いですが、また近況を報告しますね。
バックヤードがモエギハコガメだらけになっちゃうな、こりゃ。

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