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ワニ舎の掃除と可憐な動き
Posted by zoohonda on 2007年4月12日(木) 22:29
「最も安全な場所から、最も危険な作業を眺めるほど楽しいことはない」
これはあるアメリカの動物園のワニ舎の前に掲示されている文章です。
なるほど、ウィットに富んだセリフだな。
たしかに僕がワニの掃除に入るとなぜか人が集まります。
みなさん何を期待しているのだろう。
ここはガビアルモドキ展示場。東尋坊ではありません。
4m近い5匹のワニが暮らしています。
崖の下にはガビアルモドキ君達。
後ろを振り返れば・・・
奴がいます。
ガビアルモドキは熱帯アジアの一部に生息するクロコダイル科のワニ。
性格は神経質です。絶滅に瀕しており国際的に動物園での繁殖事業を行なっていますが、あまりうまくいってません。円山でも産卵まではいくのですが、繁殖には成功しておりません。
普段は剥製のように動きませんが、捕食の時と危険を感じて逃げる時は異常に素早い。
口が細いですね。これは水中ですばやく魚を捕獲するためこのような形をしています。
飼育されているワニってのは大抵おとなしい個体が多いんです。
人が寄っても全然平気な無気力ワニ。
餌の与えすぎで太って泳げないワニ。
やっぱり飼育下のワニってどこかおかしい・・。
人が寄れば、水に飛び込み逃げる。
間合いを詰まれば襲い掛かってくる。
餌を見せれば、素早い動きで捕食する。
ワニはこうでなければなりません。
これが僕の持論です。
当然うちのワニ達はそれらの条件を満たした素晴らしい個体ばかり。
完璧なプロポーションと尖った性格。
どこに出しても恥ずかしくない個体です。
よくお客さんに聞かれます。
「どうやって掃除してるんですか?」
「掃除の時ワニはどこに移動させるんですか?」
「そのまま入っていくんですよーえへへー。」
ワニの掃除に必要なのは、デッキブラシでもホースでもありません。
「勇気」です。勇気リンリン。
そして少々の運動神経。
周りの人達は僕のことを運動音痴の虚弱体質と思ってるようですが、違います。
腕相撲だって中2くらいまでなら圧勝だし、走らしたら主婦には負けません。
「ためしてガッテン」とか観てたから知識も豊富、たまにストレッチなんかもしてたしね。
光ゲンジ世代だからバク転やバク中だって朝飯前です。
ってことでワニの掃除のお話です。
これが大変なんですよ。
こっちも隅々までキレイに洗いたいんですが、隅にはワニがいます。
そしてでかい体でダムを作り、汚れた水をせき止めるんです。
水をかけようが、後ろから突付こうがピクリとも動かない。
意を決したワニは頑固なのです。
これじゃあ掃除になりません。
日曜日の奥様の気持ちがよくわかります。
んでしつこく移動させようとすると、今度は物凄い勢いで向かってきます。
ここでアドバイスです。ワニに横から近づいてはいけません。
彼らは頭を素早く振り、横と後ろにいるものを一瞬で攻撃できます。
だから正面から近づくほうがわりと安全。ほんとわりとだけどね・・・
でもここは運動神経抜群の僕です。
手に持った掃除用具を一瞬で投げ出し、ブラックマンバように身をひるがえします。
そしてジョンストンワニのようにジャンプし柵を超え逃げるのです。
展示場には主人を失ったゴムホースだけがウネウネと寂しく水を放出・・・
「今日の俺、イカシテルな。」
自分の可憐な逃げ方に自画自賛。
そしてふと我に返ると、目の前には大勢のお客さん。
みなさんそろってキョトンとした顔。
「ん?」
襲ってきたワニはというと、なんとなくのんびり。
ただ方向転換しただけの様子、寝返りみたいなもんです。
へたれ飼育員、今日もやっぱり顔がほてります。
そして閉園間近までバックヤードにひきこもるのです。
ではみなさん素敵な週末を。
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